fermata
 町はずれの高台に建つ古い洋館。
 急な坂道を上がりきったところにあるそこは、外界からの接触の一切を拒絶するように、背の高い門で閉ざされている。

「やっぱりこの季節は気持ちが良い」

 洋館を回り込んで裏に回れば、広い空き地にでる。
 晴れた日には遠く海まで見渡せる、絶景スポットだ。

 しかも。

 私は空を見上げていた視線を、そのまま後ろにやった。
 この洋館のお蔭で、周りには人がいない。

「幽霊屋敷様々だね」

 古い洋館は、それだけで不気味だ。
 その上この屋敷、人が住んでいるかどうかも怪しい。

 かといって荒れ果てた様子はなく、なのに泥棒や浮浪者が入るわけでもない。
 窓に人影があるのを見た、と言う人もいるが、門が開いたところを見た人がいるわけでもない。

 そのうち窓の人影は『白い人影』となり、『夜に音楽が聞こえる』とか『蝙蝠がやたら飛び交っている』とか噂が立って、親は子供に『あそこに近付いたら魔女に捕まえられる』『吸血鬼に食べられる』と言うようになり、今やすっかり幽霊屋敷だ。

 通常幽霊屋敷と噂が立とうものなら、返って人が集まりそうなものだが、何故かここは、それがない。
 これまた不思議なことだが、皆本気で恐れている節がある。

 魔女とか吸血鬼とか、もちろん信じているわけではない。
 人影だってほんとに見たのか怪しいし、怪異の類は全て噂で、実際体験した人などいないのだ。

 なのに、何となく足が遠のく。
 本能が、ヤバい、と警鐘を鳴らす、というのだろうか。

 というわけで、この洋館の辺りは絶景にも関わらず、人っ子一人いないという、何とも贅沢な時間を過ごせる場所なのだ。
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