fermata
「お邪魔します」

 中に入ってしばらくすると、目が慣れてきたのか、部屋の中がぼんやり見えた。
 背後の日差しは何故か家の中まで届いていない。
 ひんやりと冷たい、石造りの部屋。

「揺り椅子に座って、ゆっくりして」

 正面にある階段の踊り場に、ゆらりと影が動き、かすれた声が降ってくる。
 言われた通り部屋の真ん中にぽつんとある揺り椅子に座ると、ピアノの音が流れてきた。

 ゆったりとした曲調。
 これがピアノ協奏曲第三番?

「これはノクターン」

 ピアノの音と一緒に、かすれた声が届く。

「嘘。前の違う」

「前のは第二番。これは第一番」

「そんなにあるんだ」

「第二番が一番有名。でもこれも綺麗でしょ」

 揺り椅子がゆらゆら揺れる。
 背もたれに頭を乗せて天井を見ると、さぁっと辺りが暗くなって、星が瞬いた。
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