夏を殺したクラムボン





その噂が流れたのは、ある夏のことだった。





蝉の声がけたたましく降る7月上旬の8時半。2年4組の教室は生徒たちの囁きで溢れかえっていた。



とある噂がK中学校のあちこちで伝えられ、それは塊となって一つの空席に視線を集めている。



成海 諒(ナルミ・マコト)は友人たちと適当な会話を交わしつつ、席に座りクラスメイトたちの声に耳を傾けていた。



「ね、聞いたことある?あの子が、……を殺したらしいよ」

「あぁー、誰かが見たんだってな。確かに友達いさなそうだしやりそう」

「え?あの子が殺したのは……じゃなかった?」

「なに、それ」



どよめきが発される。



「え?他にもなにか殺してるの?」

「あたしは……って聞いたよ」

「まじかよ……えげつねえな。そのうち殺人になったりしてな」

「明日にでも誰か殺されそうだよね」



数分後にチャイムが鳴ると、クラスメイトたちは話をやめ、蜘蛛の子を散らすように自らの席に戻っていった。彼らが話していたその場には小さな沈黙が残る。



それを眺めたあとでたった一つ残る空席に目をやり、成海は頬杖をついた。



……今日、葉月は来ないのだろうか。
約束したはずのに。



じっとりとした暑さにより浮かんだ汗を、タオルで拭う。朝であるにも関わらず、成海のタオルは濡れている。



その後、成海は机の中から厚い推理小説を取り出し気のない様子で栞を挟んだページを開いた。



瀬戸内海のとある島に、身元不明の死体が次々と流れつく。



そのとき、前方の扉がゆっくりと開かれ、担任の沢田教師がやや重い足取りで姿を現した。



「おはよう」



と沢田は幾人かのクラスメイトに声をかけ、教卓まで歩いていく。



成海は興味なさげに沢田への言葉を返すと、再び小説に視線を戻した。



< 2 / 116 >

この作品をシェア

pagetop