夏を殺したクラムボン



開け放たれた扉から、長い黒髪の少女が無表情で教室に足を踏み入れた。室内の一切の物音が掻き消え、数十の視線がその少女に注がれる。



彼女の半袖のセーラー服から覗く腕は白く、スカートから出た足は細い。



ふと我に返った沢田は彼女を見て顰蹙し、



「葉月……」



と名前を呼んだ。



「……席につけ」



葉月と呼ばれた少女は返事をせず、まっすぐに前を向いて堂々と成海の隣の席に向かう。



沢田は彼女の後ろ姿を見送り、かすかに顔を歪めた。



そうして空白の席は埋められ、32人が揃う。



成海は頬杖をつき、黒髪の彼女――葉月 周(ハヅキ・アマネ)の端正な横顔に目を向けた。その視軸に気付いたらしい周は、床のリュックから国語の教科書を取り出しつつ成海を一瞥した。



「おはよう、成海」



周は成海にしか聞き取れないほどの声で言った。



特に表情の変化は見られない整った顔は、先ほどよりいくぶんか和らいだ印象を受ける。教室に起こる気流の影響か、彼女の髪は緩やかになびいている。



「おはよう」



成海も彼女に習って青い国語の教科書を机の上に置き、小声で言葉を返した。



「ちゃんと約束覚えてたんだ」

「……約束を守った訳じゃないけど」



周はそっけなく言い放ち、教科書をめくった。



クラスメイトたちの視線は相変わらず彼女の姿を容赦なくとらえている。



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