夏を殺したクラムボン
……葉月じゃないのに。
1限目の国語は2年4組の担任でもある沢田の担当だ。沢田は教室から移動することもなく、数人の生徒たちと軽口を叩きながら再度チャイムが鳴るのを待つ。
チャイムが鳴るまで寝ようかと成海が頭を下げたとき、背中を平たいものでつつかれる感触がした。
「なあ」
「……なんだよ」
振り返れば、髪をばれない程度に茶色く染めた浜田 優一(ハマダ・ユウイチ)が透明な物差しを手に笑っていた。
「こないだ見つけた猫もたぶんさー、不審者に殺されたんだよな」
“不審者”と言った瞬間、浜田の目は成海の隣に向けられ、すぐに正面に戻される。
下校中の猫のことか、と鮮明な記憶をたどった成海は眉をひそめた。
六月の末日。
確か、三毛の猫だった。その猫を見たのは木の葉が燃えるような日差しの日で、あたりには誰もいなかった。普段は通らない道にいたその猫の腹から、臓物が飛び出している。
赤い。
「寄り道してあんなもん見つけるとか最悪。あれ、その日に殺されたのかな。道に殆ど血が残ってなかったし」
「……血とかはあんまり覚えてないけど、それがどうかした?」
「いや、どうかしたじゃなくて」
浜田の言葉を遮るように重いチャイムの音が校舎を揺らした。
「後でな」
浜田の声を無視し、成海は前を向く。学級委員長の号令に合わせ、クラスメイトたちが一斉に立ち上がる。