夏を殺したクラムボン
「っ……呼び出して、どうするつもりだよ」
成海と数メートルの距離を置き、彼は身構えつつ問いかけた。成海は窪田の腕を掴んだ右手をぼんやりと顔の前に上げ、ゆるく窪田に目を向ける。
「全部で何匹殺した?」
「……は?」
「だから、何匹殺ったんだって」
1匹の蝉が木から飛び出し、原色の空に飛び出していった。荒れ果てた公園に緊張が漂い、窪田は全身を硬直させる。
潰れた蝉を挟み2人の間に静かな睨み合いが続いたが、やがて窪田は息を落とし、切れ切れにつぶやいた。
「……2匹だよ」
「……2匹?」
「お前の言う通り、葬式の犬と昨日の猫」
空気が振動する。
「浜田の……あいつの葬式があった日。犯人のことを殺したかった。
それでずっと歩いてたら、どっかから脱走したらしい犬が付いてきて、俺の足を噛んだ。だから、苛ついて――」
「殺したのか。昨日の猫は?」
成海の追求に窪田は目を泳がせたが、頭をかきむしり言葉をあざなった。
「……付いてきた犬を近くの公園の岩で何回も殴って、我に返って、目の前に転がってる犬を見て焦った。しばらく、どうすればいいのかわからなかった」
窪田の話を漠然と聞きながら、成海は冷ややかに蝉の死骸を見下ろしている。
「そうしたら、猫や犬を殺してるのは葉月だって噂を思い出した。
それで、通学路の途中の猫を殺して葉月の机に入れることに……した。そうしたら、こないだの犬も葉月が殺したと思われる」
「……くだらない」
まとわりつく暑気を一蹴するように、成海は感情なく吐き捨てた。