夏を殺したクラムボン



口をつぐんだまま、窪田は動かない。成海は気だるげに肩を落とし、歯を食いしばる窪田を見つめる。



「昨日の放課後、ゴミ箱の中で血まみれのビニール袋を見つけたんだ。猫をビニール袋に入れて、その上からバッシュケースにしまえば、ケースが汚れることもない。

でも、証拠がない。……警察ならビニール袋から指紋でも見つけられただろうけど、僕は警察なんかじゃないし」

「……で?俺のことを疑ってて、あの黒板の文字で騙したのか」

「ついていけば、勝手に殺害現場に行ってくれるだろうから。全員にばらすって書けば、絶対に行くと思っていた」



窪田は歪んだ笑みを作った。



蝉の死骸を音を立てて踏み潰し、緩慢な動作で成海に歩み寄る。



「……呼び出して、何の用だよ。黙っとくから金でもよこせってのか」

「別に。……ただ、お前がむかつくから」

「何言ってんの、お前?」



窪田は成海の胸ぐらを掴む。



「何がむかつくってんだよ、ああ?」

「……お前が、猫や犬を殺したことだ」



成海は多少の焦燥も見せず、右手で窪田の手首を握り、力の限りに捻り上げた。



「いっ……!」










「ふざけるなよ、窪田」










窪田の脳内に、成海の低い声が反響する。刃物のように突き刺さる視線に全身の毛が逆立ち、窪田は反射的に手を放した。



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