夏を殺したクラムボン



朝、教室に入った周は、汗が滲むような熱気と得も言われぬ空気の異質さに包まれた。窓の外は青いが、上空の半分ほどが雲に覆われている。



誰も周のことを見てはいないが、張り詰めた緊張と悪意がそこかしこに満ち、ひそやかな囁き声を生んでいる。



「……まじで怖い。浜田を殺したのもあいつなんじゃないの」

「サイコパス?」

「あいつさ、おととい葉月のこと庇ってなかったっけ?何あれ?こわ……」

「絶対にあいつと目を合わせちゃダメだよ。
 “殺される”」



昨日まで全身を貫いていた視線は消え、残るのは脳内を侵食していくような異様なささめきの波だけだった。目立たないように席まで歩を進め、椅子に座りそっけなく辺りを見渡す。



成海は机に伏せ、窓を向いて眠っている。詩織は周の背後の椅子に腰掛け、心なしか顔を上気させて成海の背中を見つめていた。



窪田は成海と同じく机に突っ伏し肩を上下させ、莉央は友達と話しながらも表情に戸惑いの色を浮かべている。



疑問符を抱えつつリュックの中の筆箱を探っていると、声が耳に届いた。



「……ずっと前から猫を殺してたのも、
 浜田を殺したのも、あいつだったんだ」






「ほんとやばいよね……成海」






……え?



聞き取った言葉が信じられず、息が漏れた。耳を澄ませばあちこちから、彼の名前を呟くクラスメイトたちの声が聞こえる。



状況を飲み込めず静止していると、背後から明るい声がかけられた。



< 85 / 116 >

この作品をシェア

pagetop