夏を殺したクラムボン



「おはよう、葉月さん」



周は振り返り、目線を上げる。声をかけたのは、卓上からにこやかに周を見下ろす詩織だった。



「あ……おはよう」

「なんでキョロキョロしてるの?」

「……どうして教室がこんなにざわついているのかと思って」

「教えてあげよっか?」



詩織は満面の笑みを浮かべ、机から軽やかに飛び降りる。周が頷くと同時に耳に顔を近づけ、彼女は声をひそめて言った。



「……今まで小動物や浜田を殺してたの、成海だったんだって。おとといの猫も、全部」

「それ、本当?」

「……あはは、教えない」



詩織が周から離れた瞬間、重いチャイムが仰々しく鳴り響いた。クラスメイトたちは互いに顔を見合わせながら席に着き、悪意と興味のこもった目で眠る成海を観察している。



その様子を見ていた周は、あることに気づき全身に鳥肌が広がっていくのを感じた。



……成海は今まで、私と違ってクラスに馴染んでいたはずなのに、どうしてみんなあからさまな悪意を向けているのだろう。



……もしかして。



教室の隅の男子が成海を指差し、いびつな笑顔で前後の友達と言葉を交わしている。周の列の女子の、小さな嘲笑が聞こえた。



……犯人は、誰でもいいってこと?



成海に対し、氷のように鋭く冷たい視線を向けている者もいる。



莉央のように半信半疑の表情をしている者もいれば、窪田のように無関係であることを主張する者もいた。



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