食わずぎらいがなおったら。-男の事情-

空調のせいだかなんだかやたら喉が乾く。

残業中に休憩室の自販機に行こうとして、開いたドアから間の悪い話が聞こえた。



田代さんと香さんだ。

「平内と、つきあってるの?」

「なんですか、いきなり」

へんなとこに居合わせたな、出直すかな、と思ってるうちに香さんがキレて、走り出してきてぶつかった。

あげた顔が俺を見てゆがんで、そのまま走り去る。




ここで退くのもなあ。行くか。何気なさそうにドアを閉めながら、そのまま休憩室に入った。

追いかけようとしてたのか、書類をテーブルに置いたまま、中途半端に立ち上がった姿勢の田代さんがいた。

さすがにバツが悪そうだけど、こんなとこで話してるのが悪いんだろ。

「お疲れ様です」

「おう。お疲れ」

「泣きそうでしたよ」

「あー、悪い」

俺に謝ってどうする。



気まずさを打ち消すように、田代さんは立ち上がって書類をまとめながら話しかけてきた。

「平内、お前さ」

「はい」

俺にも聞くのか?

「うちの営業と開発って何が問題だと思う?」

仕事か。切り替えてきたな。



「どっちも手元しか見てないって感じはしますよね。目の前の案件とお客とばっかりで」

「視野が狭いってことか」

「そうですね。技術は強いですけど企画につなぐとこが弱いようには見えますね」

「そうだな。平内は商学部だったな」

よく知ってるな。



「いきなり企画はきついだろうな。まず社外でもっと目を向けなきゃいけないとこ、流れとか競合の動きとか、調べてまとめてくれるか」

「資料ですか。プレゼン用?」

「そうだな。開発リーダー達の意識を変えていきたい。お前ぐらいの年の奴が言うとインパクトあるから」

「いつまでに?」

「今週いっぱいでまず叩き台、かな」

「わかりました。方向確認したいんで明日ちょっと時間もらえますか」
< 25 / 52 >

この作品をシェア

pagetop