食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
空調のせいだかなんだかやたら喉が乾く。
残業中に休憩室の自販機に行こうとして、開いたドアから間の悪い話が聞こえた。
田代さんと香さんだ。
「平内と、つきあってるの?」
「なんですか、いきなり」
へんなとこに居合わせたな、出直すかな、と思ってるうちに香さんがキレて、走り出してきてぶつかった。
あげた顔が俺を見てゆがんで、そのまま走り去る。
ここで退くのもなあ。行くか。何気なさそうにドアを閉めながら、そのまま休憩室に入った。
追いかけようとしてたのか、書類をテーブルに置いたまま、中途半端に立ち上がった姿勢の田代さんがいた。
さすがにバツが悪そうだけど、こんなとこで話してるのが悪いんだろ。
「お疲れ様です」
「おう。お疲れ」
「泣きそうでしたよ」
「あー、悪い」
俺に謝ってどうする。
気まずさを打ち消すように、田代さんは立ち上がって書類をまとめながら話しかけてきた。
「平内、お前さ」
「はい」
俺にも聞くのか?
「うちの営業と開発って何が問題だと思う?」
仕事か。切り替えてきたな。
「どっちも手元しか見てないって感じはしますよね。目の前の案件とお客とばっかりで」
「視野が狭いってことか」
「そうですね。技術は強いですけど企画につなぐとこが弱いようには見えますね」
「そうだな。平内は商学部だったな」
よく知ってるな。
「いきなり企画はきついだろうな。まず社外でもっと目を向けなきゃいけないとこ、流れとか競合の動きとか、調べてまとめてくれるか」
「資料ですか。プレゼン用?」
「そうだな。開発リーダー達の意識を変えていきたい。お前ぐらいの年の奴が言うとインパクトあるから」
「いつまでに?」
「今週いっぱいでまず叩き台、かな」
「わかりました。方向確認したいんで明日ちょっと時間もらえますか」