食わずぎらいがなおったら。-男の事情-
翌日から、大人げないと思いつつ、香さんを無視して真奈ちゃんを構ってる。



自分が何言ってんのか、わかってんのか。あれだけ固いのに1回でも家にあげたってことは、俺に気があるのはわかってんだよ。なんで意地はるんだよ。

田代さんとか、いい加減忘れろよ。




香さんが緊張した顔してる、毎日。

俺、Sっ気あるのかも。追い詰めたくなる。





そういう自分の衝動を後悔する日はすぐに来た。

9月の頭、香さんのミスが仕様漏れを引き起こしたことが発覚した。武田さんが引きつってる。やばいだろ。慌てて俺もフォローに入る。うちのチームは週末出ればどうにでもなる。

香さんが、蒼白だ。

瞬間的に俺のせいだと思ったけど、そう声掛けるわけにも行かない。



仕様が確定してから勝手に書き換えるミスなんて見たことないけど、なんでそんなことできるんだ。誰でも触っていいような情報じゃない。香さんにそれだけ権限渡してたってことか? それにしても武田さんの許可もなく上書きできたっておかしいだろ。

武田さんのチームは、仕様確定してから設計して開発という直線的な仕事じゃないからか。開発と導入をこまめに繰り返して、顧客からの細かい要望に応えてどんどん仕様を更新していくスタイルを取っているらしい。

それにしても、しばらく誰も気づいてなかったというのはまずい。

原因はともかく、とにかく対応しようと動けるメンバーが作業し始めた。




田代さんが低い声で呼ぶ。

「香ちゃん、ちょっとC会議室」

静まり返った。

迫力あるんだよ、この人。ここぞという時だけ。

香さんも動いているけれど、実際の開発になればそれほどやることはないのを見越したんだろう。



真奈ちゃんが、私のせいですって言い出して、香さんがなだめてる。香さんがログイン中のPCで作業したことがあったらしい。もし香さんが真奈ちゃんにそれを許したなら、結局は香さんが悪い。

抱え込んでて回らなくなって雑になったか。もしくは連携が悪くて真奈ちゃんが勝手にやったのか。

「真奈、PCに触らせたのもチェックが甘かったのも私が悪い。真奈じゃない」

香さんもわかってたみたいで、真奈ちゃんを落ち着かせようとしてる。



目をあげて、俺を見た。俺が頷くのも待たずに出ていく。

どうにかするよ、俺の蒔いた種だ。

真奈ちゃんにできる作業を渡して励まし、俺は俺で作業に入る。ゆっくりなだめてられる状況じゃないけど、とりあえず、やることあるほうが落ち着くだろ。

話は後だ。
< 37 / 52 >

この作品をシェア

pagetop