初恋の彼が、割と重度のフェチ持ちでした
「なずなの行きたいところに行こう、って逆に負担だった?」

と、柊ちゃんに聞かれる。やっぱり柊ちゃんには私の考えはお見通しのようだ。


「そんなことないよ。そういうふうに言ってもらえて、すごくうれしかった。でも、今までいつも誰かの意見についていっちゃうことが多いから、自分で全部決めていいよって言ってもらうことに、あんまり慣れてなくて」

「なずなはやさしいからそうだよな」

「ううん、なんかごめんね」

私が謝ると、柊ちゃんは「俺のお詫びなんだからいいんだよ」と言いながら手を伸ばし、私の頭をぽんぽんと撫でてくれた。


柊ちゃんは、やっぱりやさしい。いつもこんなにやさしくしてくれるのに、足フェチだからってだけでいろいろ言いすぎてしまったかもしれない。
柊ちゃんは小学生のころから、明るくてやさしい。いいところはなにも変わらない。

そう考えたら、自然と“次行きたい場所”が思い浮かんだ。


「……あのさ、柊ちゃん」

「ん?」

「あのね、


私たちが通ってた小学校、行きたい」




私たちが通っていた小学校は、柊ちゃんが今暮らしているアパートから車で一時間くらいのところにある。少し遠いけど、柊ちゃんは運転好きだって言ってくれたし、ぜひ行ってみたいと思った。私たちが、初めて出会った場所に。一年間だけだけど毎日いっしょに過ごした場所に。私たちが、子どもながらに惹かれ合った場所に。




学校付近の市営駐車場に車を停め、そこからふたりで小学校に向かって五分ほど歩いた。

何年ぶりかに小学校の前までやってくると、とても懐かしく、少しだけ胸の奥が熱くなった。
でも、私は決して卒業以来ここにやってきたというわけじゃないけど、柊ちゃんは転校して以来だ。柊ちゃんの方が懐かしがってた。そのためか。


「なずな、ちょっと中入ろうぜ」

「え⁉︎ 見つかったら怒られるよっ」

「なにも校舎の中入るって言ってるわけじゃないって。門開いてるし、校庭のあたり軽くぐるっとするくらい、見つかっても怒られないだろ」

そう言って、柊ちゃんは私の右手をつかみ、校庭の方へどんどんと足を進めていく。わわわ……やっぱり強引だなぁ。


校庭を進んですぐのところに遊具場がある。遊具はほとんど新調されているものの、この場所自体は昔と変わらなかった。


「なずな! 鉄棒だぜ! ヤバくない⁉︎ 鉄棒!」

よっぽど懐かしいのか、柊ちゃんはさっきからしきりに興奮している。普段割と落ち着いている方なのに。
鉄棒のなにがヤバいのかわからなかったけど、「そうだね」と返した。


小、中、大と、三つの鉄棒のうち、柊ちゃんは一番大きい鉄棒を握って、ひょいっと逆上がりしてみせた。


「わ、すごいね柊ちゃん」

「なにが?」

「逆上がり」

「バカにしてるのかな?」

「違うよっ。だって私できないし」

そう答えると、柊ちゃんは「え? ほんとに?」と言って私を見たあと、盛大に吹き出した。
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