ズボラ女が恋する瞬間
足は止まり、気付いたら声の主を探していた。


「そうだね」


微笑み合い、腕を組む男女の姿が目に止まる。

その姿は、仲睦まじい恋人のように見える。

さっきまで、あんなに楽しかったはずなのに・・・

その熱は、一気に冷めていく。

2人の姿を見続けていると、男と視線が交わる。

何も悪いことをしているわけじゃないのに、無性に逃げ出したくなった。

そして気付いたら、走り去っていた。

ドクン・ドクンと、高鳴る鼓動に、息苦しさまで感じる。

あたしは今、何を見たのだろう。

美術館と言う作られた世界に、あたしは幻を見てしまったんだ。

そう思おうとしている哀れなあたしに、彼は現実を突きつける。

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