その背中、抱きしめて 【下】



「そういえば先輩、週明けから修旅だよね」

「そうそう。もうあと1、2…3日だよ。何にも準備してないから買い出ししなくちゃ」


高遠くんと手を繋ぐのは慣れない。

何度手を繋いでもそれは変わらない。

それを隠すのが大変。


「何日だっけ。1週間くらい?」

「5泊6日。土曜に帰ってくるよ」

「6日か…長ぇな」


高遠くんがボソッと呟いた。


「先輩、あいつと同じ班だったりすんの?」

「あいつ?」


(あ…)

なんとなくわかった。

高遠くんの言いたいこと。

″あいつ″って誰なのか。


「この間、先輩を抱きしめてた奴」

…やっぱり。


「うん、一緒」

高遠くんが長いため息をつく。


「…先輩、あいつにあまり気を許さないでね。絶対先輩のこと狙ってるから」


怖いくらい強い眼差し。

高遠くんは冗談じゃなくて本気で言ってる。


「だ、大丈夫だよ。洋平くんはそんなんじゃなくて誰にでも優しいんだよ」



高遠くんを安心させるために言った言葉が、まさか高遠くんの闘争心に火をつけるとは思わなかった。


< 109 / 131 >

この作品をシェア

pagetop