その背中、抱きしめて 【下】
「そういえば先輩、週明けから修旅だよね」
「そうそう。もうあと1、2…3日だよ。何にも準備してないから買い出ししなくちゃ」
高遠くんと手を繋ぐのは慣れない。
何度手を繋いでもそれは変わらない。
それを隠すのが大変。
「何日だっけ。1週間くらい?」
「5泊6日。土曜に帰ってくるよ」
「6日か…長ぇな」
高遠くんがボソッと呟いた。
「先輩、あいつと同じ班だったりすんの?」
「あいつ?」
(あ…)
なんとなくわかった。
高遠くんの言いたいこと。
″あいつ″って誰なのか。
「この間、先輩を抱きしめてた奴」
…やっぱり。
「うん、一緒」
高遠くんが長いため息をつく。
「…先輩、あいつにあまり気を許さないでね。絶対先輩のこと狙ってるから」
怖いくらい強い眼差し。
高遠くんは冗談じゃなくて本気で言ってる。
「だ、大丈夫だよ。洋平くんはそんなんじゃなくて誰にでも優しいんだよ」
高遠くんを安心させるために言った言葉が、まさか高遠くんの闘争心に火をつけるとは思わなかった。