その背中、抱きしめて 【下】
「洋平くん?」
「うん」
高遠くんの眉間にみるみるシワが寄る。
一瞬呆気にとられたけど、その理由はすぐにわかった。
「…あ。」
名前だ!
高遠くんは苗字なのに洋平くんは名前で呼んでるから。
「何で名前で呼んでんの?俺は苗字のままなのに」
「名前で呼んでって。みんな名前で呼んでるからって」
私だけ特別じゃないんだよ。
でも高遠くんにはそんな理由通用しなかった。
「じゃあ俺も名前で呼んで。みんな名前で呼んでんじゃん」
(う…)
そうだけど。
みんな高遠くんのこと、名前で呼んでるけど。
洋平くんを名前で呼ぶのとは緊張度が違う。
「呼べないよー」
ちょっと泣きそうになる。
「何で?前に呼んだじゃん」
あの時。
部活前に校舎裏で名前を呼ばされて、息がつまるようなキスをした。
思い出して一気に恥ずかしさで顔が熱くなる。
「あん時みたいに呼んでよ」
「…で、できないよ」
「だから何で?俺の名前呼ぶの嫌?」
違うよ、そうじゃない!
首を横にぶんぶん振った。
「じゃあ何で?」
高遠くんの取り調べは厳しい。
絶対逃げられない。