その背中、抱きしめて 【下】
「長い1週間だったね、ゆず」
お昼休みの中庭。
さくらちゃんが笑う。
「さくらちゃんも羽柴くんも相川くんも桜井くんも、本当のこと知ってたなんて…ショック」
相川くんと桜井くんだけじゃなくて、さくらちゃんも羽柴くんも高遠くんが内村さんとカレカノごっこしてた理由知ってたなんて…。
「だってあの高遠くんが頭下げに来たんだもん。ゆずのことよろしくって。ちょっと感動しちゃったよ」
「だからって…」
ひどいよみんなー!
私ほんとうに今回はもうダメだって、精神崩壊の危機にさらされてたのに。
(あ、そういえば…)
気になってたことを思い出した。
「ねぇさくらちゃん。1番最初に高遠くんが内村さんと一緒に登校して、私が倒れちゃった日なんだけど。保健室に高遠くん来なかった?」
「あーどうだろ。あの日相川くんがずっと保健室にいてくれたから任せちゃって、私短い時間しか保健室にいなかったんだよね。でも特待イケメンコンビが高遠くんにゆずのこと言って、駆け付けた可能性はあるかもね」
あの日、カーテンの向こうで人の話し声が聞こえて…。
それから…目を少し開いたら視界が白くぼやけてて全然見えなかったけど、何となく高遠くんがすぐそばにいるような気がしたんだ。
頭を撫でられた、あの手のぬくもりは高遠くんだったと思うんだ。
『辛い思いさせてごめん』
水の中にいるように声がこもって聞こえて、誰の声かわからなかったけど
遠くの方でそう聞こえて
唇に触れたあの感触は、高遠くんの唇の感触だった。