冷徹社長が溺愛キス!?
◇◇◇
「これはこれは。遭難者の雨宮さんではありませんか。ご無事で何よりです」
エレベーター待ちをしているところへ現れたのは、同じく男子のロッカールームから出てきたと思われる加藤くんだった。
いつも同様にメガネのふちを右手で押し上げ、私を冷めた目で見下ろす。
「加藤くん、おはよう。土曜日は心配をかけてごめんなさい」
バスの中でさんざん待たせてしまっただろう。
頭を深く下げた。
「いえいえ、てっきりクマにでも見初められてしまったのかと思いましたよ」
「あの山にクマは生息していないんだって」
事実をそのまま伝えると、加藤くんは片方の眉毛をピクリと動かした。
「……そういうことを言いたいわけじゃありません。まったく本当に呑気な人ですね、雨宮さんは」
加藤くんに呆れ顔でそう言われると、何も返せなくなる。
呑気に花を追いかけていたのは事実だ。
「はいはい、加藤くん、ストップ。朝から奈知をいじめるのはやめてよ」
加藤くんと私の間に、麻里ちゃんが立ちはだかる。