冷徹社長が溺愛キス!?

一号車の人たちがばらけていく中、ふと社長が振り仰ぐ。
ゆっくりと横に移動していく視線。
そして、その動きがピタリと止まった。

……え? こっち、見てる?

なぜだか社長と視線が重なった。

ううん、まさかね。
私を見つめる理由はない。
きっと私を通り越した先を見てるのだ。

そう思いつつ、カニ歩きで横へずれる。
すると、どういうわけか社長の目までついてくる。

え、やだ、なんだろう。

うしろを振り返ってみたけれど、誰かとアイコンタクトを取っている様子はない。

もう一度社長を見て気がついた。
私を見つめているわけじゃない、睨んでいるのだ。
どこか冷ややかな眼差しで気づいた。

まるで吸盤のようにそこから逸らすことがなぜかできず、咄嗟に麻里ちゃんの背中に隠れた。


「奈知、どうしたの?」


彼女が肩越しに私を見る。


「……ううん、なんでもない」


膝を曲げた状態のまま麻里ちゃんの腕からそっと顔を出すと、さっきと同じ目にもう一度捕えられてしまった。

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