冷徹社長が溺愛キス!?

「雨宮さん、お先にー」

「あんまりのんびりしてると、弁当食べ損ねるぞー」


何度となく掛けられる声に、「はーい、すぐに追いかけまーす」と答えながら、つい夢中になって花を探す。

整備された山道よりも脇道のほうがどうしたって、いろいろな花が咲いている。
あとで引き返そうと思いつつ、脇道にどんどん分け入った。

わー、ウメガサソウだ。珍しい。

なかなか顔を見せてくれることのない花を見つけて、ついテンションが上がる。
デジカメを構えて、何枚となく写真を撮る。

そうして花に吸い寄せられるように足を進めていると、ふと誰の声もしなくなっていることに気がついた。
ついさっきまでは、登山者の声が遠くで聞こえていたはずなのに。
耳を澄ませてみても、聞こえるのは風に揺れる葉っぱの音と鳥のさえずりだけ。


「麻里ちゃーん」


試しに呼んでみたものの、かすかに私の声がこだまするばかりだった。

えっと……どうしよう……。

立ち止まって、しばらく考える。
とにかく来た道を戻ろう。

……どっちだっけ?

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