じれったい
兄への溺愛ぶりはひどいものだった。

彼には自分が作った手料理を食べさせるのに対し、僕は板前の人が作ったまかない料理を食べさせられた。

僕は母の手料理ではなく、板前のまかない料理で大きくなったようなものである。

兄には小学校から私立の学校へ進学させて学習塾にも通わせていたうえに、僕は公立の小学校に通わされた。

習い事は習字と水泳をやらせてくれただけで、後は何もしてくれなかった。

塾に行きたいと言う願いも無視された。

母の目に映っているのは兄だけで、僕はそんな彼女の視界にすらも入れてもらえなかった。

父には関心すら持たれず、母は兄に一方的な愛情を注いでいる。

そんな孤独な毎日を送っている僕の唯一の支えは、映画技師として働いている祖父だった。
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