じれったい
病院を出ると、
「よかったですね」

私は玉置常務に声をかけた。

「ええ、よかったです」

そう答えた玉置常務の顔は晴れやかだった。

「矢萩さんの言う通り、今まで逃げていた過去と向きあうことがよかったです。

こんなにも晴れやかな気持ちになったのは久しぶりです」

私と同じように玉置常務もお母さんへの依存とお兄さんへの憧れと向きあい、それらを絶ち切った。

「これからは、前を向いて歩くことができますね」

そう言った私に、
「ええ、そうですね…」

玉置常務の視線がある方向へ向けられていることに気づいた。

そこへ視線を向けると、小さな子供を連れて歩いているショートカットの女性がいた。

彼女のお腹が大きいところを見ると、妊娠をしているようだ。
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