恋色シンフォニー 〜第2楽章〜
「綾乃がつけたいもの選んでいいよ」
「と言われても、つけたことないし」
何人かの男性と付き合ったけれど、指輪をプレゼントしてくれるような関係になったことない。
……だから、そんなにうれしそうにニヤニヤしないで。
「圭太郎、結婚指輪するの?」
「当たり前でしょ」
「……楽器弾く時は外していいからね」
弾きにくいだろうし、楽器に傷がついたら大変。
と思っていたら。
「その、僕の気持ちより楽器優先する癖、いつになったら直るのかな」
呆れたように言われた。
「さすが三神君の彼女だわ」
なんて井上さんも笑ってるし。
気になったものをいくつかつけてみる。
……をを。存在が重い。
でも。
……うん。正直うれしい。
指輪をすると、愛されてる女性って感じがする。
「圭太郎もつけてみてよ」
約四半世紀ヴァイオリンを弾いてきた手に余計なお肉は一切ついていなくて、長い指は骨張っている。
かなり色っぽくて、キュンとくるパーツと思ってることは内緒。
その薬指に細めの指輪がおさまると、不思議と私が満足していた。
……独占欲が満たされるとは、こういうことなのかな。
と。
圭太郎は、彼にしては珍しく少し乱暴な仕草で指輪を外し、元に戻した。
「ちょっとごめん」
慌てた様子で、外へと出ていった。
……声、かすれてた。
私は敢えて後を追うことはしなかった。
たぶん見られたくないはずだから。