恋色シンフォニー 〜第2楽章〜
「……それは、どういう……」

「婚約する。結婚する。でも、婚約指輪は勿体無いから、いらない」

「勿体無いって……。こう言うのも何だけど、お金あるよ。持ち家だから、家賃かからない分貯蓄してる。固定資産税差し引いても、それなりの額はたまってます」

「そうかもしれないけど、この先……、子どもが音楽やりたいって言った時のために、お金は貯めておきたいと思って……」

お医者様だった圭太郎のご両親(過去形なのは、すでにお二人とも亡くなっているから)と違って、私達はしがないサラリーマンだ。稼ぎが違う。

私と圭太郎の子どもだったら、かなりの高確率で音楽をやりたいと言うと思う。
今からお金を貯めておくに越したことはない。

高い婚約指輪をもらっても、結婚後は特別な時にしかつけないっていうし。


「綾乃が将来のことを考えてくれて、すっごくうれしい。だけど、それとこれとは別。僕は綾乃に指輪してもらいたい」

「……えっと、なんで?」

「僕の自己満足、兼、虫除け」

「……は?」

「綾乃は“余計な”お金は使いたくないんでしょ?」

「うん」

「じゃあ、婚約指輪は、僕の精神衛生に必要な経費です」

……圭太郎は、こうなったらひかない。
しかも、腹黒い微笑みを浮かべて、こんなことを言ってきた。

「それを言うなら、今無駄にしてるお金があるよね?」

えっ? 何だろうか。
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