恋色シンフォニー 〜第2楽章〜
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「お前、バッカじゃないの?」
設楽さんの返事はそれだった。
婚約と同居(“同棲”というのは何だか恥ずかしい)の報告に伺おうとしたら、『もてなすより、もてなされたい』とのことで、土曜昼、三神家に設楽さんをお招きし、3人で焼肉パーティ中。
「自分が弾いた後に、自分より上手い奴にソリスト頼むバカがどこにいるんだよ」
「……ここにいる」
「まー、お前がバカなのは知ってたけどな。で。指揮者は?」
「早瀬マリ」
「ほー。この間コンクールで優勝した指揮者とは、なかなかの客入りが期待できる。で、彼女は何て?」
「面白そう、だって」
「ブルッフでやられてんのに、マリちゃん、マゾか」
「否定はしない」
「お前もだよ。オレがビシバシやったらアマオケついて来れんの?」
「だからメンコンで鍛えた」
「……うわー、やだ。綾乃ちゃんてば、今さらだけど、こんな腹黒い奴でいいの?」
「……仕方ないです」
「こら。そこは好きだからいいんです、って答えるとこ」
「ハイハイハイハイごちそうさま。
わかったよ。
で。綾乃ちゃんは、何聴きたい?」
「ブラームスが聴きたいです」
「ふぅん。
……よし、オッケ。2楽章、あまあまに弾いてあげるよ。覚悟しときな?」
設楽さんが自信たっぷりに、ニヤっと笑った。
うわぁ。
ブラコンの2楽章、ヴァイオリン協奏曲の緩徐楽章の中でも大好き!
楽しみ‼︎
ニヤニヤを抑えきれずにいると、隣の圭太郎に、机の下の足を軽く蹴られた。