恋色シンフォニー 〜第2楽章〜

***


「お前、バッカじゃないの?」

設楽さんの返事はそれだった。

婚約と同居(“同棲”というのは何だか恥ずかしい)の報告に伺おうとしたら、『もてなすより、もてなされたい』とのことで、土曜昼、三神家に設楽さんをお招きし、3人で焼肉パーティ中。

「自分が弾いた後に、自分より上手い奴にソリスト頼むバカがどこにいるんだよ」

「……ここにいる」

「まー、お前がバカなのは知ってたけどな。で。指揮者は?」

「早瀬マリ」

「ほー。この間コンクールで優勝した指揮者とは、なかなかの客入りが期待できる。で、彼女は何て?」

「面白そう、だって」

「ブルッフでやられてんのに、マリちゃん、マゾか」

「否定はしない」

「お前もだよ。オレがビシバシやったらアマオケついて来れんの?」

「だからメンコンで鍛えた」

「……うわー、やだ。綾乃ちゃんてば、今さらだけど、こんな腹黒い奴でいいの?」

「……仕方ないです」

「こら。そこは好きだからいいんです、って答えるとこ」

「ハイハイハイハイごちそうさま。
わかったよ。
で。綾乃ちゃんは、何聴きたい?」

「ブラームスが聴きたいです」

「ふぅん。
……よし、オッケ。2楽章、あまあまに弾いてあげるよ。覚悟しときな?」

設楽さんが自信たっぷりに、ニヤっと笑った。

うわぁ。
ブラコンの2楽章、ヴァイオリン協奏曲の緩徐楽章の中でも大好き!
楽しみ‼︎

ニヤニヤを抑えきれずにいると、隣の圭太郎に、机の下の足を軽く蹴られた。




< 54 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop