誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―


京都の町を襲ったどんどん焼けは、長州軍が撤退した後に起こった。


新撰組と会津軍が長州軍の残党を炙【あぶ】り出すため、町屋に火を掛けたせいだ。


軍事的には、それは手柄と称された。


しかし、その手柄によって、炎の中で三百人以上が死んだ。


二万数千軒の家や寺や神社が焼け、祇園祭の華やかな山車【だし】も焼け、たくさんの負傷者と失業者を出した。



「壬生の野犬と会津の田舎者が、いらんことしよって」



聞こえよがしの陰口が、斎藤の耳に入って来る。


いらんこと、と断じられてしまうのは、あまりに胸が痛い。


京都を守っているつもりでいた。


私利私欲のためではなく、勤めをきちんと果たしているつもりだった。


それが無益で、むしろ有害だったと言われるならば、斎藤は何のために人を斬ったのだろうか。


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