クールな准教授の焦れ恋講義
 私が先生と出会ったのは大学の入学式の翌日、学部の新入生オリエンテーションに向かう途中だった。

「ごめん、ちょっといいかな」

 遅刻ギリギリで駆けていた私は慌てて声のしたほうに体を向けた。時間がないのに、と思いながらそちらに目を遣るときちっと黒いスーツを身に纏い、眼鏡をかけた真面目そうな男性が困った表情でこちらを見ていた。

 サークルの勧誘でもナンパでもなさそうなのは一目で分かる。

「オリエンテーションが行われるホールってどっちか分かる?」

「あ、私も今向かっているところなんです。時間がないですし急ぎましょう」

 自分と同じ立場の人間と把握して私の警戒は一気に解けた。そして小走りに移動しながらも、遠慮がちに気になったことを口にする。

「あの、入学式は昨日ですよ?」

 昨日はさすがに男子も女子もスーツ姿が多かったが、今日はほとんどが私服だ。その中で似合うとはいえ、今の彼の格好は非常に浮いている。彼はきょとんとした顔になってから軽く口角を上げた。

「俺の入学式は今日なんだ」

 意味が分からないままホールの入り口が見えてきたところで、彼は別の方向に向かい始めた。

「ありがとう。また縁があったらよろしく」

 もし同じ学科だったら、という意味だろうか。深くは考えずに受付で資料をもらい私はホールに入って空いている席を探した。

 やはりというか、こういうのは後ろからどんどん埋まっていくものらしく時間も迫っているので最前列にちらほらと見えた空席におとなしく座ることにして開始を待つ。

 間もなく始まったオリエンテーションは資料通りに滞りなく進み、最後に教授陣の紹介になった。小学校じゃあるまいしと思ったが、この中の先生たちからゼミを選ばなくてはならない。一列に並んでいく中でそこに見覚えのある顔があった。
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