クールな准教授の焦れ恋講義
「男子ばかりだと威厳が保てそうにありませんしね。巴先生」

「そうだな。この前も生協でカードを更新するときにおばちゃんに学生に間違われたよ」

 嬉しいというより苦笑しながら告げるその顔は、やはりもうすぐ三十五歳とは思えない。彼の名は巴裕章(ともえひろあき)。私の恩師であり大学で主に民俗学を教えている。最近は自分の研究よりも雑務のほうに追われているとぼやいていた忙しい准教授サマだ。

「先生、いつになったら年をとるんですか?」

「人を妖怪みたいに言うな。これでも白髪とか増えてきたんだぞ」

 全くもって威張るところではないと思う。私はようやく元の持ち主に席を譲ろうと立ち上がることにした。しかし肩に手を置かれてそれを制される。

「いいよ、座っとけ」

 私の用事は済んだのに、と思いながらドキドキしていると

「ついでにデスクトップにある草案を読んで感想を聞かせてくれ。専門誌から依頼が来たんだが、どうも俺の研究分野とはテーマが外れてて。あとコーヒーも頼む」

 こちらを見ることもなく用事を追加されて、私はわざとらしく肩をすくめた。

「そんなんだろうと思いました」

「頼むよ、飯奢ってやるから」

「私は先生の助手じゃないんですよ」

 そう言いながら、にやけそうになるのを必死に堪える。ポーカーフェイスはなかなか難しいけれど昔よりは上手くなっただろうか。

 しょうがない。私、早川奈津(はやかわなつ)はかれこれ六年以上も彼に恋をしているのだから。
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