聖獣王と千年の恋を
宵闇の迫る宮殿の執務室で、ガーランはぼんやりといすに座り北西の空を眺めていた。池の庵が壊れたのはなんとかごまかせたが、あと一歩のところで門の娘を連れ去られてしまったことは、返す返すも忌々しい。
彼らにはガーランの正体もバレてしまったので二度と同じ手は使えない。ワンリーの雷聖剣を折ることができたのは唯一の僥倖(ぎょうこう)だろう。
だが、テンセイの聖獣殿が封じられたままなら、彼らが再び舞い戻ってくることは明白だ。ワンリーが丸腰で来ることはないだろうが、雷聖剣に代わるほどの剣がそう易々と手に入るとは思えない。タオウーと黒龍剣があれば問題ないだろう。
問題なのは門の娘から発した強烈な陽の光だ。なにか特別な宝物を身につけているのか、あるいは娘本人が持つ特殊な力なのか。こちらは少し厄介だ。なにか対策を考えねば。
すでにすっかり暗くなってしまった部屋の中で、ガーランが考えを巡らせていると、入り口に燭台を持ったシェンリュが現れた。宮殿内の要所要所に明かりを灯して回っているのだろう。
部屋の中にガーランがいることに気付いたシェンリュは、入り口から声をかけた。
「ガーラン様、まだお仕事をなさいますか?」
ガーランはニヤリと口元に笑みを浮かべ、黙ってシェンリュを手招く。素直にそばまでやってきたシェンリュを見上げて、ガーランは微笑んだ。
「おまえのおかげで客人のもてなしがうまくいった。褒美を取らせよう」
そう言ってシェンリュの持った燭台の火を吹き消す。呆気にとられるシェンリュの手を引いて、倒れ込んできた彼女をひざの上で抱き留めた。