お嬢様 × 御曹司
「今日は休日なのに早いのね?」


母さまは、着物姿でいつも過ごしている。


毎日どうしてあんなにうまく着物を着られるのかはわからない。


そして母上はとてつもなく着物が似合う。


「はい。」


「あらあら、お父さんがいないときぐらい、普通に話しなさいな。おほほほほほ。」


そう言って上品に笑う母上。


この話し方は、将来俺が財閥を継いだとき、つまりは農業家の社長になった時のためにと父上が小さい頃から身につけさせたものだ。


でも母上は、「お父さんがいないときぐらいは、普通の話し方にならないと、馬鹿にされるかもしれないじゃない?」と言って、いつも父上がいないときは普通の話し方を俺に要求する。


母上も普通に子供と話したいんだろうし、俺は俺でその区別が楽しいからその要求を受け入れている。


「こんな話し方してるってばれたら、父上に怒られそうなんだけど?」


そんなことを言いながら、母上の手伝いをするために台所へ行く。


味噌汁を作っていたところなので、お椀を食器棚から出す。


「大丈夫よ。お父さんのスケジュールも現在地も、すべてわかってるから。いつ帰ってくるかぐらいは予想つくもの。」


味噌汁をかき混ぜながら楽しそう笑う母上。


その話は耳にタコが出来るぐらい聞いたが、いつ聴いても恐ろしい。


多分、俺のスケジュールも現在地も母上に知られているのだろうなと思う。


それを考えて何度鳥肌が立ったことか…。


「それならいいや。」


そう言って俺はお椀をお盆の上に並べて母上の横に立つ。


「そうよ。子供はそうでなくっちゃね。武蔵(ムサシ)にはそんなことさせてあげられなかったし…」


母上はお盆に乗ったお椀をとって、味噌汁をよそる。


いい匂いにお腹がグルル…となりそうだ。


「兄上はそれでよかったんだよ。母上が気に病むことじゃない。」


武蔵というのは俺の兄で、商業の方の跡取り。


高校1年生で、商業科の中のトップ校に通ってる。


身長は185センチで、母上譲りの黒髪が少し長めで、大きくて真っ黒な瞳。


剣道をやっていたから運動神経も良く、昔から勉強好きで頭もいい。


頭も運動も容姿も体型もパーフェクト。


モテること間違いなしの、あれでこそ御曹司だ、と俺は思う。


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