ばかって言う君が好き。

 笑いながら「大好きだよ。」そう言って、何度も私に口づけしてくれた直人。

おどけた感じも、意地悪なあの表情も―――いつものやさしさはここにはない。

何かを訴えるような、
強い、激しいそれに私は抵抗ができない。

「直人…や…。」
 ずるりと服が下がって、露になってしまっている私の左肩に、彼は何も言わず、口づけを落として。

気づけば私は、涙を流していた。

「…っ。」
 彼は腕を離して、私を起こす。

「直人……。」

「疑ってるんじゃなくて。頭では分かってんだけど、でも…なんで、二人っきりなんだよ。

なんで、リンリンって親しげなんだよ。
なんで――――…触れさせてんだよ。」

「あ…。」
 苦痛に顔をゆがめた彼。

悲しそうな、切なそうな、今まで見たことがないくらい傷ついた彼がそこにいた。

「直人、なおと…」
 私は腕をのばして、抱きしめようとするのだけれど、

「ごめん、先寝る…。」
 腕をかわして、バタンと静かに彼は寝室の扉をしめた。

隣で横になる彼の背中を見ながら、私はやっと気づいたのかもしれない。

彼はずっと我慢していたのだと。


ご飯を一緒に食べて先輩の話をしたときも、デパートで先輩に会ったときも、
のとき感じた違和感はきっと間違いじゃなくて―――

直人のお母さんに教えてもらっていたのに、
寂しがり屋で、我慢しいで、
ずっとずっと一人で耐えていた彼の事を……。

「直人、ごめんね、ごめん。」
 彼の後ろ背を抱きしめながら、私はその日ベッドにたくさんの染みを作った。

< 110 / 165 >

この作品をシェア

pagetop