ばかって言う君が好き。

 変わらない、週末の朝。
いや、いつもよりも楽しい一時かもしれない。昨日の夜からの朝だとは、全然思えない。

「おいしいね。」
 笑いあって。脳内には、巷で流行っているミュージシャンの音楽が流れる。

「朝からもう今日は飲んじゃおうか。」
 彼は買って来たお酒をポーンとあける。

予想以上に飛んで行ったお酒のふたに、私たちははしゃぐ。

楽しくて幸せな時を、毎日まいにちプレゼントしてくれる人。

あー楽しい。
あー楽しい。
あ――――楽しい。

でも。
だからこそ。
私の前でだけは、彼に我慢してほしくない。

思っていることを話したい。
素直な気持ちを聞きたい。
愛しい。大切な人だから。

「私、直人のお母さんから聞いたの、直人のこと。」

「え、何?悪いこと言ってた?」
 自嘲する彼。

「ううん、逆だよ。すっごい優しくて、思いやりにあふれる子だって言ってた。」
 彼のコップにお酒をたした。

「照れる。」
 彼がお酒を流し込む。

「私もそう思う。直人は本当優しいなって。」

「うるさいなあ。」
 照れたように彼はつぶやいた。

「でも、だからって直人のこと好きってわけじゃないんだ。」

「…どういうこと?」

「嫌なことはいやって言って、寂しかったらさびしいって言って、思ったことを言ってほしい。

直人もそう前言ってくれたじゃない?

私だって同じだよ。
聞き分けいい彼氏なんていらない、私は直人がいいの。ありのままの。

私の前で、そんないい人演じてほしくない。」
 私は彼の手を握る。彼の目線はその手に移る。

「だから教えて。思ったこと、我慢してたこと。何でもいい、私にも共有させて。」
 彼は私の肩に首をうずめた。

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