ばかって言う君が好き。

 ガチャ、玄関の扉が開く音がした。
私はメモから手を放し、急いで玄関へ向かう。

「あれ?倫子起きたの?」
 拍子抜けするほど、普段通りの直人だった。

「あ、えっとうん。」

「おつまみ何もなかったから買ってきた。」
 にこっと笑いながら、コンビニの袋を私に差し出した。

中に入っているのは、あたりめ、貝柱、チョコレートケーキ。全部私が好きなもの。

「……ありがとう。」

「うん。」
 すれ違いざまに彼はくしゃっと頭を撫でた。じーんと続く余韻が切なかった。

「メモ見たの?」

「ううん、まだだけど…。」
 立ちつくす私にメモを差し出す。

「お味噌汁作ったよ、コンビニ行ってくる。
って書いたの。」
 あっさりと告げられるメモの中身。彼の言葉通りのことがそこに並べられていた。

でも、一つだけ違うことがある。

「この絵は?」

「可愛いだろ?」
 端の方に小さく書いてある男の子と女の子の顔。

まさか、これ……

「俺と倫子。」

「…直人、おかしすぎ。」
 アハハと思わず、私は笑い声をあげてしまう。

「大真面目に描いたんですけど。いらないなら返して。」
 彼は口をたこのように膨らませてすねる。

「あげない。」
 私は彼に取られないよう、大事に握った。

「ばか」って彼が小さく言った。

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