ばかって言う君が好き。


 会社からの帰り道、私は一歩一歩小さめな歩幅で帰っていた。大事にしてくれた人に、大切にしたい人のことを電話で話していたから。

「本当に大丈夫?
あなた抜けてるんだから、頼りっぱなしじゃ駄目よ?」

「もう分かってるよ。」
 相変わらず、電話するたびにそう言われる。
もう一歩、私また大きく成長しようとしてるのに、いつまで言われるんだろう。感慨にふけながら、私は言葉を紡いだ。

「ちゃんと二人で仲良くしてるから。
週末挨拶に行くから、日にち決まったら教えるね。」

「私たちは後回しでいいから、直人君の方を優先させるのよ?
私もお父さんも何も言わないから。」

「分かってる。」
 直人は絶対、後回し許さないと思うけどね、口まで出かかったその言葉を私は飲み込んだ。


ピンポンパンポーン

「あ、ごめん電車くるからそろそろ切るね。家にも着くし。」

プルルルルルル―――警笛音が激しく響き渡る。

「うん、わかった。
体、気を付けてね、無理しないのよ。直人君もお体大事に。」

「はーい。じゃあね。」

「あ、倫子!」

ガタンガタンガタン、私の横を通りすぎる電車。

母さんのばか。


「おめでとう」


 そう言い残して、電話切らないでよ。

電車が通り終わるまで、私はその場から動かなかった。

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