ばかって言う君が好き。

「続けることも難しいこと、別れることも辛いこと。
でもね、本当は何が一番難しくて、辛くて、怖いことか分かってるでしょう、倫子なら。」

「…っ。」
 ポトンポトン、ぬぐっても追いつかないぐらい涙が出てくる。

「ずっと変わらず他愛もない会話をしていれば、交際は続くわ。
別れようといえば、彼で悩むことから解放されるわ。

……でもそれって簡単なことなのよ。

自分を押し殺して流れに身を任せればいいんだもん。ずっと、倫子はそうしてきたんでしょう?
直人君だけじゃなくて、今までの恋愛も。」

「お姉ちゃん。」
 彼女は優しく私を抱きしめた。

「直人君から連絡まだ来てるんでしょう?」
 こくんと私はうなずく。

「ゆっくりでいいから、話してごらん。
大丈夫、大丈夫、きっと最後はうまくいくよ。
私だって、幸せになれたんだもの、倫子も大丈夫よ。」
 コンコンコン。ドアが数回ノックされる。

「準備が整いましたので、
そろそろお席の方移動していただけますでしょうか。」
 叩いたのは従業員さんだった。

「はーい、ただいま!」
 姉は立ち上がると、私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。

「変わることを恐れちゃだめよ、倫子。
…ま、とりあえず、今日は楽しんで。

落ち着いたらまた会場に戻っておいで。
ごちそう、私の分までたくさん食べなきゃよ。」
 そういって、ウインクを残して彼女は部屋を出ていった。

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