ばかって言う君が好き。

 時計の音だけが部屋に響く。
もう何日だっけ……、別れようと告げたあの日から―――。

傍に置いていたバックから携帯を取り出して、電源をつける。

通知1件。
毎日ではないけれど、今でも数日に一度連絡をくれる彼。

トーク画面を開く。

『今日、お姉さん結婚式だよね。
よろしく伝えといてください。』
 彼らしい優しい連絡だった。

トーク画面には、来ていたその言葉しか並んでいない。

理由は単純、私が履歴を消したから。
付き合っていたころのやり取りを見返しちゃわないように。

別れようって私が告げたのですもの……。
そうだよ、お姉ちゃん。私、話せないよ……。

『ありがとう、伝えとくね。』
 私はそれだけ送る。

ピンポン
続けて彼からの連絡

『今、大丈夫?』

『大丈夫だけど』
 そう送って、彼から来た着信に出てしまったのは、彼に何も話せないと思いながらも、姉の言葉にどこかで励まされていたから。


「もしもし?」

「もしもし……倫子?」

「うん。」
 1か月ぶりの彼の声。穏やかで優しい声。

「お姉さんは?」

「あ、今近くいないの、ごめん。」

「そっか、挨拶したかったんだけど、しょうがないね…」
 残念そうな彼の声。

「倫子、今大丈夫なの?」

「あ、うん。私だけ別の部屋でちょっと休ませてもらってて。」
 心配をかけまいとなるべく言葉を選んだつもりだったのに、

「大丈夫?無理すんなよ?」
 と言って、私を気遣ってくれる彼。

「ありがとう、心配しないで。」
 私はなるべく明るい声で伝えた。

「式、どう?」
 そう言われて、真っ先に思い浮かんだのは幸せそうな姉の顔だった。

「すごい、幸せそう。
こっちまで顔がにやけそうになるぐらい。」
 ふふっと笑う私と彼。
こうして話していれば、別れる前と何も変わらない。

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