こんにちは、頭蓋さん。
オカマとバイト



麻野アパートの一階はバーになっている。といっても落ち着いた雰囲気ではあるし、昼にはカフェとして開けていることもある。


そんなカフェアンドバーの経営者はオカマの麻野さんだ。


大抵、バーとして開店するのは午後5時から。もしそれ以前にアパートへ入るには、入居時に貰った合鍵を使うしかない。



「麻野さんいないのか……」



今がその時だ。


いつも通り4時過ぎに帰ってきた私だが、バーは開いていない。


前に、不便だから外に階段でも付けてと頼んだら「家賃倍増」なんてほざかれた。


窓から差し込む光以外は明かりがない店内に入って、カウンター近くにあるスイッチを押した。暫くすると落ち着いた色の光が点く。


普段は滅多にここに居座らないけど、今日は麻野さんに話があるんだから仕方がない。



「それもこれもお母さんのせい……いや私にも非はあるけど」



実は今朝、遠くに住むお母さんから電話があった。

久しぶり、とお母さんを懐かしんでいれば、耳に届くのは妙に元気のない声で。



『ごめんなさい綾。バイトして生活費稼いでくれないかしら』

「……は?」



急に何を言う。


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