【B】きみのとなり

春の日差しをその身に受けながら、オレは愛車のMクーペへと足を進める。


コイツに乗るのも久しぶりだな。
鷹宮邸の駐車場に預けていた愛車に乗り込む。


暫らくみない間に車の顔ぶれが変わった。


以前は、高卒と同時に雄矢先生が買い与えたトヨタのクラウンが二台並んでいた駐車場。

一台は千尋のパールホワイト、もう一台は勇人のブラック。
だが今は二台ともクラウンは駐車場から姿を消し、代わりにパールホワイトのセルシオが駐車されている。



柳宮が保護出来た背景には千尋の従兄弟であり神前財閥のボスを担う、
伊舎堂裕真【いさどう ゆうま】の力があったことも総師長からの話で伝え聞いている。



オレと同い年のソイツ。
時折、ここにも手伝いに来ることのある伊舎堂の凄腕の兄弟たち。


あいつらに任せてりゃ、鷹宮は大丈夫だろ。



後は勇人が見つかりゃなぁ~。


今も見つからない勇人も、
従兄弟殿なら見つけ出してくれんじゃないかとすら思ってしまう。


暫らくセルシオをずっと見つめていたが自宅に帰ることを思いつく。


キーをまわしてエンジンをかけると軽快なサウンドと共に自宅マンションへと戻る。


途中、大人しく今も眠っているだろう氷夢華に食わせる材料をスーパーで買い込んで、
地下駐車場にMクーペを滑らせて駐車した後、慌てて荷物を抱えてエレベーターへ。


そのエレベーターが地下一階に降りてくる間も長くイライラする。


ようやく降りてきたエレベーターに乗り込んで、
自分の階のボタンを早々に押すとマンションの玄関へと走り開錠する。



「氷夢華、悪かったな。
 ちゃんと寝てっかー」


あの日から帰ってない自宅マンションに靴を脱ぎ捨てて駆け込むと、
真っ先にアイツの部屋を覗く。


オレの視界に飛び込んできたのは蛻の殻になった部屋。





おいおいっ、冗談だろ。



慌てて全部の部屋を確認するが何処にも氷夢華の姿はない。



『とりあえず飯くいなよ。
 風呂入ってさ』


そうやってオレを迎え入れたアイツの声が脳裏を掠める。





「ばかやろうっ!!」




思わず握り拳で壁を叩く。



いやっ、違うかっ。

バカはオレかっ……忙しさにかまけて氷夢華を見てやれなかったんだからな。



とりあえず電話を掴んですでに暗記した番号を押して
アイツの携帯を呼び出す。




『こちらは……お客様の電話は現在電波の届かないところか電源が入っていないため……』



切ってやがんのかっ。
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