【B】きみのとなり

12.氷夢華の存在~嵩継-




三月下旬。
早城の患者の検査後、氷夢華が倒れた。



昼頃、アイツを院内で見かけたとき顔色が悪いのに気がついた。


声をかけたが聞こえなかったのかわざと無視したのか、
あのバカはオレを見向きをしなかった。



あの時、無理やりでも捕まえていれば……今更後悔しても何も変わらない。
倒れた氷夢華は、早城が早々に病院で処置をした。


その時間、オレは駆けつけようにも緊急手術の真っ只中。
執刀医と来たもんだから離れるわけにも行かない。

オペが終わって氷夢華が居る処置室に飛び込んだものの、
アイツは薬が効いているのか眠っていた。


少し痩せたか……そう感じながらも長くその場に居ることは
許されず消防庁からのホットラインがオレを仕事へと戻らせる。


早城が勤務を交代すると申し出たが、オレはそれを素直に受け入れるわけには行かない。

アイツにしても、ようやく二ヶ月ぶりに休めるオンコールだ。
ここ数ヶ月、変則シフトで慌ただしかった。


例え、それが急患が来ると潰される束の間の休息であっても、
運よく救急の手が足りて休めることもある。

そんな貴重な時間を奪うわけにはいかない。

たまには神威君の待つ自宅マンションのベッドで休ませてやりたかったしな。


それと同じ事が由貴にも言えたが、アイツの場合も同様。


特にアイツの場合は妃彩ちゃんが居る手前、どうしても帰らせてやりたかった。
ここんところ、妃彩ちゃんを悲しませるシフト続きだったからな。


そんなこんなで申し出を一方的に断って、
代わりに氷夢華を自宅で休ませてやってくれと飛翔と氷室に頼んだ。


そうすることで、あいつらを確実に自宅に帰らせたかったのも理由の一つだ。

そして氷夢華にも慌しいこの場所より、自宅の方が休息しやすいだろうとふんだからだ。


柳宮のガキの保護に成功した千尋が復帰し、伊舎堂から応援がくるまでの一週間。

氷夢華のことは気にかけながらも総師長の配慮でその間、
アイツのシフトが休みになっていたことを知っていたし、
流石にあのじゃじゃ馬もあの状態じゃ大人しく寝てるだろうと仕事のほうを優先させた。


そして待ちに待ったその日がやってきた。



「嵩継さん、長い間すいませんでした」

そう言って医局に姿を見せた千尋は、何かが吹っ切れたような表情をしていた。



「皆、長い間すまなかった。
 まだ皆も知っての通りだが、勇人の所在は不明だ。

 だが今日から、伊舎堂家より、裕と裕真が手伝ってくれることになった。
 知っての通りだが、二人は私の甥っ子だ。

 もっと早くに義弟には頼んでいたのだが、裕と裕真の都合がつかなくてな。

 まだ当面、変則シフトには近いないが、嵩継にもようやく時間を作ってやれるな。
 今日はもう帰りなさい」



雄矢院長の計らいもあって俺は現場を委ねて実に三ヶ月と一週間ぶりに自宅に帰宅することになった。

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