【B】きみのとなり



「氷夢華、料理はおまかせでいいか?」

「あっ、うん。大丈夫」



この場所に連れてきてもらって嬉しいのと、さっきの女がチラチラと思い出されていらだつのと
女心は複雑。


今も、あの女の説明をしてくれない兄貴に苛立ちは募るばかりで、
運ばれてきたコース料理をただ無言で食べ続ける。


いつものアタシのテンション返してよ。
ったく、バカ兄貴。


海兄を慕って後を継いでくれたお弟子さんが作ってくれた、
綺麗な彩の料理を食べても、正直、今日は味がわからない。


あぁ、胃も痛くなってきちゃったよ。


兄貴は早々に食事を終えると、逃げるように店の手伝いなんてしてる。


一人、座敷に残されたアタシに気を配る様に話し相手になってくれるのは、
海兄のお母さん。


「氷夢華ちゃん、ごめんなさいね。
 せっかくのデートを邪魔しちゃったわね。

 おばさんもね、今、嵩継君にお世話になってるのよ。
 海斗の病気が見つかる少し前に、肝臓壊しちゃって。

 だから嵩継君、こうやってあの子が入院してる時から、
 店に来ては、おばさんの仕事手伝ってくれるのよ」



そうやって、海兄のお母さんはアタシに申し訳なさそうに話してくれた。



その後は閉店時間が近づいてお店が一息つくまでおばさんがアタシに気を配りながら、
アタシの知らない闘病生活を過ごしていた海兄の写真を見せてくれた。



海兄の病名は骨肉腫。

そのアルバムの中には、車椅子のままケアセンターで過ごしている海兄と、
その傍で笑ってる嵩兄の写真が沢山あった。


兄貴が少年とサッカーしてた庭ではバーベキュー大会なんてしてたんだ。



写真に刻まれた日付が海兄が生きていた時間を教えてくれる。


アルバムの最後の方には、
海兄がバーベキューの日に作ったらしい懐石料理のコースの写真。



そして最後の頁には眠る様に息を引き取った直後の海兄で終わっていた。
その隣にも、嵩兄はベッドサイトで映ってる。


二人の兄貴の写真を指先で辿って、そして兄貴の方へと視線を向けた。
< 71 / 149 >

この作品をシェア

pagetop