【B】きみのとなり

って、最低。
兄貴と一番最初にしたデートの記念日に、この仕打ち酷すぎる。



そう思ったら、兄貴のいろんな気に入らないところが次から次へと出てきて
イライラがおさまらなくなっちゃった。



しかも去り際のあの女。

兄貴がアタシの名前をその女の前で呼んだとたん、
その女がアタシに視線を向けて『あらっ、おつれさんがいたのね』って
アタシに向かって声にならない声を発する。




居たわよっ、悪い?
ほらっ、とっとと消えてよ。

アタシに兄貴返してよ。

大切な記念日なんだから。




心の中で罵りながら、唇をぎゅっと噛みしめて
相手に鋭く視線を送り続ける。



「じゃ、またね嵩継君」


じゃ、またね。じゃねーよ。

兄貴との次はないんだから。
兄貴の傍にはアタシが居るんだから。



っと、あの女が残した言葉にやっぱり心の中で反発しながら、
ムカムカがおさまらない心を必死になだめながら、
兄貴の手首をきゅっと掴んで、ツカツカと駐車場に向けて歩き出す。



途中まで行くと、掴んでいた手首を放した。



「ねぇ、兄貴。さっきの誰?
 感じ悪いし、嵩継君って、兄貴の名前、馴れ馴れしく呼んでくるし」


っと、兄貴に苛立ちをぶつけるように言葉を発する。



空気最悪。
こんなことがしたかったわけじゃないのに。



その後、ショッピングモールを出たアタシは、兄貴が運転する車で見知らぬ小料理屋へと連れられて行く。


「いらっしゃいませ。
 あらっ、嵩継君いらっしゃい。

 まぁ、珍しい。今日はお連れさんと一緒ね」


って、アタシたちを座敷へと案内してくれた年配の女の人。


あれっ……、アタシ、どっかで見たことあった気がする。



「氷夢華、海斗のおふくろさん」


兄貴が耳打ちするように教えてくれる。


「まぁ、貴女が氷夢華ちゃんね。
 嵩継君と良く来てくれたわね。

 そう……ちゃんと再会してたのね」


意味深に、おばさんは呟いて嬉しそうに微笑んでくれた。


そのおばさんの顔立ちから懐かしい海兄の特徴が見えてくる。

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