遠くの光にふれるまで





 十月最後の日。今日も朝から輸血をした若菜さんは、苦しそうな呼吸をして、かたく目を閉じている。

 時間がない。仲直りは無理だとしても、せめて最後に会わせてあげたい。

 花に頼んで若菜さんのそばにいてもらい、俺は天使を探しに行った。
 夕方まで頑張ってみたが、やっぱり会えなかった。

 夜、ようやく目を開けた若菜さんはゆっくりと俺を見上げて、掠れた、か細い声で「ありがとう」と呟く。

「何が……ありがとうなんすか?」

 聞くと「ぜんぶ」という言葉が返ってきた。

 お礼を言いたいのは俺のほうだ。
 俺は若菜さんと出会って、初恋を知った。楽しい日々をもらったし、色々なことを考えさせられ、学んだ。

 お礼と同時に、謝ることもある。

「すいません若菜さん……どうにか丙さんを連れて来ようと思って天使を探したんですけど……見つけられなくて……」

「いいよ」

 答えた声は、小さかった。でも、しっかりと意志を持った、芯のある声だと思った。

「大丈夫。きっと、また会えるから」

「若菜さん……」

「また会えるって、信じてるから」

「はい……きっと、会えますよ。いや、絶対会えますから……」

 そんな確証はなかった。向こうの世界は広い。人間界の比じゃないくらい広大な土地に、物凄い数のひとが住んでいる。しかも六界どこに送られるかも分からない。天界に送られたとしても、天使にならない限りは丙さんに近付くことさえできないだろう。
 でも、俺は「絶対会える」と、信じるしかなかった。

 今度は同じ世界の住人として、ふたりに幸せになってもらいたかった。


 若菜さんは「ふふ」と笑って目を閉じ、安堵の息を吐く。

「ああ、楽しかったなあ……」

 その声も、安堵でいっぱいだった。




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