愛されたい、だけなのに


「櫻井?起きてる?」

ドアの向こうから、柳先生の控えめな声が聞こえる。

「あ、はい」

慌てて髪を整え、ドアに向かう。


ドアを開けると、柳先生が立っていた。



「あ…おは…」

なんとなく、気恥ずかしくて挨拶できない。


するとー…


「おはよう、櫻井」


ふんわりと優しい笑顔で、柳先生が言った。



ドキン!


「…っ」


きゅんっと、胸が締め付けられる。


ただ、挨拶されただけなのに…


胸に当てた手のひらを、心臓を掴むようにギュっと握りしめる。


ドキドキ…ドキドキ…としているのが伝わってくる。


「朝食の用意できてるから、食べてて。俺、ちょっと出てくるから」

「え…」

こんな朝からー…どこに?



「櫻井の洋服、どうにかしないといけないだろ?朝早すぎて店開いてないから、母さんのとこ行って何か借りてくる」

「あ…」

そうだ。

学校の鞄は幸い持っているが、私服などは母親のアパートに置きっぱなしだ。


「すいません…」

「いいよ。じゃあ、行ってくるから。ゆっくり朝食でも食べてて」


そう言うと、柳先生は出て行った。



その後ろ姿を見ながら、また自己嫌悪になる。



戻って来て早々、また柳先生に迷惑かけてる。


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