僕は君に夏をあげたかった。
私は………
夜の海は冷たい。

水に浸った足の先から、全身に冷気が回っていくようだ。

濡れた砂がずぶりと沈み、足にからむ。

足が重く、歩きにくい。

波が岸にと寄せていき、進行をさまたげる。

それでも私は歩を進めていった。


足首までだった海の水は、ひざに、ふとももに、歩いていくごとに深くなり、やがて腰のあたりまで到達した。

このまま行けば沈んでしまうだろう。

でも、それでもいい。

佐久良くんとずっと一緒にいるんだから。


「………あっ」


胸のあたりまで海水につかったとき、ひときわ大きい波がたち、私は頭からぐしょぬれになった。

海水で鼻がつんとなる。

少し飲んでしまったのか、のどが痛くなり、私は軽くむせた。

それを合図にするかのように、高い波が顔に当たっていく。

そのたび呼吸がうまくできなくなり、口からはあはあと情けない息がもれた。


……ぞくり、と底知れない恐怖を感じる。


当たり前だが、水の中では息ができない。

波は私をのみこむことも出来てしまう。

波が高くなったのは、別に急に海が荒れたからじゃない。

私が沖へと進んでいるから。


そして、これから先に進むというのは………


「………っ」
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