僕は君に夏をあげたかった。


くろしおの車内。

あずささんと2人で並んで席にすわる。

走り出した窓からは、海が見えてきた。


「………大阪に帰ったら、宿題頑張らないとな」


そうつぶやくと、あずささんが『手伝うわよ』と優しく言ってくれる。


「……いいよ。手伝ってもらったら宿題にならないじゃん」

「そ、そうね。それもそうよね」

「あずささん、そんなに私に気をつかって疲れない」

「気をつかってなんかないわよ。わたしね、麻衣ちゃんのために何かできるのが嬉しいのよ」


あずささんはそう言うと、カバンからよく冷えたお茶のペットボトルを取り出して渡してくれた。


「……あのね、わたしには生まれてすぐに死んだ娘がいたのよ。生きていたら、麻衣ちゃんと同じ年くらいね」

「………」

「もちろん、麻衣ちゃんと娘を重ねているわけじゃないわ。娘は娘。麻衣ちゃんは麻衣ちゃん。

でもね、わたし、またこうして娘ができるなんて思わなかったの。とても幸せよ。麻衣ちゃんがわたしを受け入れられなくても、わたしは麻衣ちゃんのこと、とても可愛い。大好きよ」

「……あずささん」


微笑むあずささんの瞳はとても優しい。

そして同時にとても強い。

それは、悲しみを越えた強さに思えた。
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