僕は君に夏をあげたかった。
「部活って………文化祭に飾る絵を描いてるの?」

「そうだよ。あと1週間で完成させないといけなくて大変なんだから」

「どんな絵?文化祭に行ったら見れる?」

「えー……やめてよ、恥ずかしい」


ぷるぷる頭を振る私に、おかあさんがクスクスと笑う。


「……まあ、見に来るくらいならいいけどね」

「ありがとう、麻衣ちゃん。楽しみにしてるわね」

「………ん。
ごちそうさま。そろそろ行くね、アキと一緒に行く約束してるから」

「はい。行ってらっしゃい」


おかあさんに見送られ、私は家を出た。


スマホを見ると、アキからLINEが入っている。

『おはよー。待ち合わせ場所にもうついたよ』って。

早いな、アキったら。

私も急がないと。


……ずいぶん暑さの和らいだ空の下を私は歩く。

季節はうつろう。時は止まることなく流れる。

笑っていても、泣いていても、自分では立止まっているつもりでも。

私は前に進んでいる。時の流れとともに。

この歩みは、ずっと止まらない。生きている限り、ずっと。

それならば、せめて……

少しでも、自分らしく進みたい。



「………がんばるね、佐久良くん」

そう、ひそかにつぶやく。

潮の香りが、どこからかやってきた気がする。




空は秋晴れ。

暑い季節の終焉に、胸が苦しくなる寂しさと

それと

背筋が伸びるような清々しさを感じていた。



ーーーーーendーーーーー



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