僕は君に夏をあげたかった。
さみしいね
おじいちゃんの家に来て3日目。

今日も空は快晴。

朝からセミの声がうっとうしいくらいにうるさい。


「じゃあ、おじいちゃん、行ってきます。帰りに買い物してくるから……」

「おー。気を付けてな。夏くんによろしく」

「………」


おじいちゃん。

言ってないのに、どうして佐久良くんと会うってわかったんだろう。

そんなに顔に出ているんだろうか……。




『君を描きたい』


佐久良くんにそう言われたのが昨日。

いきなりの頼みにどうしたらいいのかもわからず、自分がどう答えたいのかもわからず

ただ佐久良くんの真剣な眼差しに押され、……気づけばうなずいていた。

つまり引き受けてしまったのだ。

そして、さっそく今日からモデル開始。

少しでも涼しい時間にと、午前中から佐久良くんに会う約束をした。

場所はいつも通り、あの海辺なのだけれど……。


(……どうして、引き受けてしまったんだろ)


正直に言って後悔している。

初恋の人の頼みとはいえモデルなんて柄じゃないし、昨日あんなことがあったから佐久良くんに会うのは気まずい。

それに……

あまり絵と関わりたい気分じゃない。

もうずっと、絵から逃げているから。
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