結婚も2度目だからこそ!
先輩の家はタクシーで15分くらい走らせた場所にあった。
乗っている間、先輩は私の手を握って離さなかった。

手から伝わる先輩の体温。
アルコールでなのか、それともこの状況でより熱を帯びているのか、それは分からない。

そのくらい先輩の手はとても熱くて、私自身も火照ってしまいそうなくらいだった。



タクシーを下りて、エレベーターで5階まで上がる。
部屋のドアの前まで行くと、持っていた荷物を一旦下に置いて、片手で鍵を取り出す。

その間も私の手を離すことはなかった。


「ちょっと散らかってるかもしんないけど、気にしないで」

先輩は少し申し訳なさそうに言って、私を部屋に入れてくれたけど、全くそんなことはなくて、部屋の中はとても綺麗に整頓されていた。

リビングには大きな棚があって、びっしりとCDや本が並んでいる。

テレビの左右には大きなスピーカー。そして、レコードプレーヤーやコンポが置かれていて、さらに電子ピアノまである。


「・・・先輩らしい部屋ですね」

「あはは。上手くなるためには、聴くことからって言うじゃん?」


適当に座ってて、と言って先輩はキッチンへと向かう。
その時ようやく私の手は先輩から解放された。


そう言われてもただ座っていられそうになくて、私は棚にあるCDや本を眺めていた。
そこにあるのは、全てが楽器に関するもの。

オーケストラ、吹奏楽、ジャズ・・・。
それを見る限り、先輩は本当に音楽が好きなんだと思った。


こんなにも好きで、これほどまでに勉強し努力していたのに、先輩はプロにならず普通の社会人としての道を選択した。


もったいないと、正直思った。



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