結婚も2度目だからこそ!

「お待たせ京香。ごめんね、たいしたもの出せないけど、飲んで」


先輩はマグカップをテーブルの上に置いて、私を呼んだ。
マグカップからは湯気が出ていて、紅茶のいい香りが辺りを漂う。


「ありがとうございます。頂きます」

私はマグカップを置かれた席に座ると、それをひとくち飲んだ。

じわりと優しい温かさが食道を通るのが分かる。
それと同時に気持ちが安らいでいく。

「あ、美味しい」

「でしょ?俺の一番のお気に入りの茶葉」

ふー、と湯気を飛ばしながら、先輩もマグカップに口を付ける。
とても穏やかな時間が私たちの間を流れていた。


「……久しぶり」

そんな空気がやけに懐かしく思えて、つい、そんな言葉が漏れてしまった。

「久しぶり?」

「そう……今まで穏やかな時間がなくて、いつも何か心の中がざわついていた毎日だったから、こんなに落ち着いた気持ちになれたのは久しぶりで」


こんな穏やかな時間は、結婚してすぐのあの頃と同じ。
あの時も、圭悟とふたりこうやって向かい合わせに座って、静かに流れる時間を共有していた。

とても幸せな時間。
そんな時間が長く続くと、そう思って疑わなかったのに。



――その時、突然後ろから先輩に抱きしめられる。

私が昔のことを思い出してアンニュイに浸っている間に、先輩は私の背後に回っていたようだ。
それに全く気付かなくて、いきなり抱きしめられたことに驚いてつい大きな声を出してしまう。

「せ、先輩!?」

「智樹、だよ。ふたりの時は名前で呼ぶって言ったじゃん」

「あ、ご、ごめんなさい」

「じゃあ、今呼んで。俺の名前」

そう言って、私を抱きしめる腕の力が強くなった。
先輩の早い鼓動が、背中から伝わってくる。

抱きしめられて緊張しているのは、私だけじゃなくて先輩も同じということに、ちょっと安心して嬉しくなった。


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