1ヶ月の(仮)夫婦
「……すいません」
少し恥ずかしそうにそっぽを向いて謝る夫
「いいえ」
それに苦笑して答える私。
「練習してたのですが……上手くいかないものですね」
「練習してたんですね」
少し笑う だから早く起きてたのか
この人はほんと真面目だ。
『二、僕は夫として、あなたは妻としての役割を果たすこと……勿論あなたはお弁当を作ってくださいね 僕の妻なのですから』
「ごちそうさまでした 美味しかったです」
「はい……お弁当です」
お弁当の入った黒い保冷剤バックを渡す
受け取る彼もスーツ、鞄、コート一式黒
ネクタイは今日は赤。
「ありがとうございます」
「今日の卵焼きは頑張りました」
玄関で見送るのも妻の役割
用意が終わった夫はこれから仕事へ
黒い革靴を履きながら
「それは楽しみです」
と言って笑う。
そして私の方を見て
「今日は早く帰ります」
「分かりました」
軽い 形だけのキス 軽すぎて唇の熱さえ感じない。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
夫が出ていく
後ろ姿 彼の背中
扉が閉まるみえなくなる。