遠回りして気付いた想い
で、着いたところは、豪華なホテル。
って、ここ実家経営のホテルじゃないか!
ヤバイな。
知り合いに会ったら、俺どういう態度をとったらいいかわからん。
なんて、ヒヤヒヤしながら中に入ったが、まさか誰にも会わずに場所に到着するとは、思ってもみなかった。

個室に入れば、昨日の社長と社長令嬢が、席についていた。

これは、早々に退出するしかないか。

「高橋、とりあえず座りなさい」
部長に言われて、渋々席に着く。
「高橋……遥さんと呼ばせてもらっても?」
ハッ?何でいきなり名前呼び?
っていうか、そんなのさせるわけ無いだろ。
そう呼んでいいのは亜耶だけだ。
「すみませんが、今まで通り高橋でお願いします」
口許だけほころばせ、目許を細めて睨み付ける。
目の前の女は、不服そうな顔をして。
「此所に来たってことは、私と結婚してくれるんですね」
何て、花を咲かせたような笑顔を俺に向けて話す彼女に虫酸が走る。
ここに来ただけで、結婚OKって頭大丈夫か?
誰が、お前みたいな見てくれしかない女と結婚するか。
「すみませんが、ここに来たのは、上司の顔を立てるためで、貴女とは結婚できないんですよ。俺、とうに婚約者がいる身でね。公にはなっていないんですが、大財閥のお嬢様と既に八年前から決まってるんです」
俺は、嘘は言ってない。
「それ、嘘ですよね」
信じない彼女に対して。
「大財閥とは?」
父親の方が、興味を持ったみたいだ。
「トップですね」
俺の言葉に部長まで驚くくらいだ。
そう、企業トップと言えば、鞠山財閥しか浮かばないだろう。
お嬢様の方は、頭に疑問符を浮かべながら、父親と俺を交互に見てくる。
「もしかして、鞠山財閥の孫娘ですか?」
父親は、直ぐにそう返してきた。
「そうです。会長にも認められてるので。ここで話したこと、一切他言無用としていただきたい。彼女のお披露目と同時、婚約発表することになってるので」
俺の口から、すらすらと出る言葉。
そうでもしないと、この親子口に出しそうだったし……。
「…と言うことですので、他を当たってください」
俺は、口許だけを上げて、目は彼らを睨み付けた。
「では、これで……」
俺は、そう告げて席を立ち部屋を出た。
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